これから話す例は実例というよりは典型例です。
[相談①]
夫が亡くなった後、一人暮らしさせるには心配なので息子夫婦に引き取られたおばあ様がいらっしゃいました。
最初のうちは息子の嫁との関係も良く、特に問題なく過ごしていたのですが、ある時、「嫁が通帳を盗った」というようになりました。
嫁もそんなことはないと否定しているし、その後、部屋の中から通帳が見つかったので盗まれていないのだけれど、どうしたらよいでしょうか。
このような方がもの取られ妄想と呼ばれるものの典型と言われています。
このもの取られ妄想は、認知症の方の典型の一つと言われておりますので、もしこのような症状がある時は、当院にご相談ください。
なお、なぜこのような症状が起こるかという原因を話すと、それは「ふと置いた物の場所が分からなくなる」からと言われています。
若い方でもよくやるのは、メガネをかけている人だと理解するかもしれませんが、メガネを頭の上に乗っけた状態で「メガネ、メガネ」と探す感じですね。
このように言うと、冗談のように感じるかもしれませんが、これが高齢者になって起こると、そしてそれがお金関連のものだったら、大変です。
これは高齢者あるあるなのだと思いますが、やはり若い人とは異なり、体も動かなくなってくるわけです。
であると、自分の体が動かなくなったらどうしようという不安があるものですが、そのような時に不安を解消するものの一つがお金なわけです。
しかし、その頼りになるはずのお金が無くなってしまうとなると、命に差し迫る事態なわけです。
そのあたりから、「どうでもいい」と切って捨てるわけにはいかず、不安が高まってしまうと説明されます。
別に、お金がないと大騒ぎすることを「ああ、そろそろ物忘れが始まってしまったか。病院に行くか」とか「息子に相談するか」となるようであれば、問題ないわけです。
でも、「
病気と診断されるのって誰でも怖い」のページにも書きましたが、自分が認知症と認めることは非常に怖いわけです。
そうなると、「自分は認知症でない」「自分に物忘れはない」というのは根拠がないけれど絶対に訂正できないことになるわけです。
後、「『もの取られ妄想』というのだったら、別に嫁を犯人にしなくても良くない?」とおっしゃるかもしれません。
実を言うと、その通りなのです。でも、実際はどうかと言いますとやはり、「嫁が盗った」など言う人が多いわけです。
ここらへん、なぜなのかと言われると難しいですが、想像の範囲ですが、昨今のニュースにあるように、どこかの知らない人がお金を盗ったと考えると、非常に怖くありませんか?
これは高齢者であろうとそうでなかろうと共通だと思いますので、その恐怖心に耐えられない時に人は、安易な答えに頼ろうとします。
つまり、「嫁が盗った」という、自分としては対処可能な問題のはずだと信じるようになります。
これが「妄想の種」なわけですね。「訂正できない思考」を妄想と呼ぶのですが、ここまで書いた通り、この妄想については訂正されると「実は見たことない犯罪者が家に入ったんではないかという懸念」を生じますので、本人としては絶対に認めるわけにはいかないわけです。